病気の療養中は、いろいろなことを考えるものです。わたしが一時期レーザープリンタの設計に携わっていた関係上、レーザープリンタに関わることもいろいろと考えていました。今回は、そんなわたしの考えを以下に記します。
近頃は内部統制やセキュリティについての関心が高まっているようですが、これに関連して、レーザープリンタに何か動きがあるものかと注目しておりました。ところが、各社とも何か関係ありそうな製品を出していないところを見ると、プリンタに対する要求事項は特に出ていないもの推測しております。事務機は会社の経費と関係してくるので、何か法制上の要求がない限り余計な付加価値は無駄になるし、価格やランニングコストの安さが好まれるのでしょう。
セキュリティに関してプリンタ側で対応できることの一つとして、共有プリンタでプリントアウトした印刷物を出力した人に確実に渡すということが考えられます。方法としては、
- 指紋認証などによりパソコンにログインし、プリンタでも同様の認証を行って印刷物を受け取る。印刷物を出力者別にトレーにソートしておき、プリンタで認証するとその人の出力した印刷物が入っているトレーが開いて、取り出すことができる。
- ロボットに印刷物を席まで持ってこさせる。
などといったことが考えられるかと思います。とりあえず作ってみて、特許を取っておいても良いのでしょうが、製品化は、法制化などにより世の中が要求してくるまで待たれるのでしょう。特に 2. は話題にはなるかもしれませんが、何か特殊な理由がないかぎり導入するところはないものと思われます。
製品への化学物質の使用規制には、欧州のRoHS、日本のJ-MOSSなどがありますが、大手メーカーはその程度が達成できたからといって満足すべきではありません。化成物はそれ自体が自然環境に害を及ぼさないように対策を施すことはもちろんのことですが、その生成過程においても環境負荷をより減らす必要があるからです。もちろん機械的性質が必要とされる条件を満たしていることは当然求められることですが、より環境負荷の少ない材料へと切り替えていくこともこれからの物作りでは大切になってくるものとわたしは考えています。材料メーカーと協力しながら、新たな材料探しをしていく必要があります。そのようなことを実行していくことにより、環境に対して真剣に取り組んでいる企業であることを世間にアピールすることができるし、それによって企業イメージを向上させることができるでしょう。
次は、搬送ゴムローラーのホコリ対策について。ゴムは多孔質編み目構造のため、帯電防止タイプの材質を使ってもホコリが付着しやすいのですが、ローラー表面に特殊加工を施すことでホコリを付きにくくするとか……。材質については、ホコリは付きにくいけれども紙類の搬送には適している表面構造をもった、何か新しいものが開発される可能性はあるでしょう。
話は変わって、ポリゴンミラーの回転速度のことですが、わたしが見かけた記事によれば、6万rpmのものもあるのだとか。おそらくこの回転数がプロセス速度と関係してくるのでしょうから、ポリゴンミラーの回転速度が速くなったスキャナを搭載して、今年中にはA3カラーの40ppm機がキヤノンやHPから出てくるのかな~と勝手に予想しているのですが……。
そう言えば、LEDを横一列に並べてプリンタの発光素子にする方法も開発が進んでいるらしくて、数年後には量産化されそうな気配を感じています。
ただし、この方法をわたしなりに考察してみると、例えばLEDを1200dpiくらいで並べて全部いっぺんに点灯させたら、隣同士が干渉してしまい、ドラム上で像を結ばないなんてことになるのは容易に想像されます。その対策として、端から順繰りに点灯させていくとか、フィルターを使って干渉しないようにするとか、レンズを入れるとか、そんなことをしてなんとかドラム上に結像させるんだろうなんて空想しています。物理的思考の好きなわたしとしては、そのあたりのことがどうしても気になってしまいます。多分それぞれのメーカーでいろいろな方法をとってくるのでしょう。
また、LED面の精度も鏡面のように平らでなくてはいけないはずなので、その製法について、興味があるところです。
さらに、例えば4800dpiで作って大きさを4分の1にすることができれば、フルサイズのものにくらべて歩留まりが改善され、安く作れるかもしれません。横方向にはレンズで拡げればよいわけです。素子が小さくなることで、光量が落ちるのかどうか気になるところですが、ちょっと調べたかぎりでは分かりませんでした。もし光量が落ちるのであれば、プロセス速度を落とすなどといった対応を採ることになるのでしょう。
もっとも、LEDやレーザーダイオードの高出力化や省電力化はいろいろなところで研究されているようなので、発光素子を横に並べたレーザープリンタスキャナは、ポリゴンミラーを用いたタイプに対して、コストと寿命と消費電力を加味して優れていると判断された時点で市場に出てくるものと思われます。
後でいろいろ調べたところ、『別冊日経サイエンス、凝縮系の物理』(日経サイエンス社/1997年11月)に掲載されている論文「半導体レーザーとヘテロ接合構造」(M.B.パニッシュ/林 厳雄)の中に、コンピュータの装置内の、ちょっと長め(数m~数cm)の信号伝達で光が使われはじめたという記述がありました。さらに、数百から数千の信号を並列に伝送するために、究極的には光の波長に近いμmオーダーの大きさを持つ“マイクロ光素子”が必要になり、それを数百から数千個、電子集積回路の中に混ぜて集積するようになると予想されるとの記述がありました。
ちょっと計算してみると、1200dpiで20μmくらい、4800dpiだと5μmくらいになります。『別冊……』は1997年11月に刊行されているので、10年前からいずれはμmオーダーの光素子が開発されなければならないと考えられていたことになります。また、最近行われている光素子の研究には、ナノサイズの大きさでの発光技術に関するものも見受けられるので、もしかすると、4800dpiのレーザーダイオードも近い将来開発されるかもしれません。
有機ELディスプレイをインクジェットで作る方法があり、いろいろなところで開発が行われているのですが、その方法を応用してレーザープリンタスキャナの発光体を作ることができるかもしれません。ただし、有機ELはまだ寿命が短いらしいので、その点の改善がないかぎり実現は難しいでしょう。
自作PCパーツのマザーボードやグラフィックカード、CPUのヒートシンクなどでヒートパイプが使われているのをよく見かけますが、レーザープリンタースキャナのポリゴンミラーのモーター冷却で使ったりしないのでしょうか。小型化でスペースがなくなってくると、じかに空冷するのが難しくなって、ヒートパイプを伸ばして風路にヒートシンクを設置することで冷却しなくてはならないような状態にはまだなっていないのでしょうか。
そう言えば、NECと富士ゼロックスからほぼ同じ時期に同じようなスペックのレーザープリンタが発表されることが以前から気になっていたのですが、NECはPCで水冷やヒートパイプの使い方のノウハウを持っているでしょうから、その技術がレーザープリンタの設計に応用されることがあるかも……、と思ってしまうのは考えすぎでしょうか。
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